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第3章 不死を憎むもの プロローグ リオの誘惑

Author: スナオ
last update Last Updated: 2025-05-27 12:54:57

 生死をさ迷って以来、桜夜の日常は一変してしまった。再襲撃を警戒した四方院玄武は本邸の結界を強化し、感覚の鋭い玄武のお膝元、つまり本邸の敷地内からの桜夜の外出を禁止した。

 とはいえそれで彼の仕事が無くなるわけではなく、オンラインミーティングや電話、メールで各所と連絡を取り合い、今後の四方院家のために働いていた。つまり出張が多い仕事から在宅の仕事に変えられただけだった。

「お茶です」

「ありがとう」

 これまで通り家事はサイカが中心にやっているが、リオはすっかり秘書になっていた。スケジュール管理がややずさんな桜夜を上手くフォローしていた。

「こちら、午後の会議の資料です。それとウィリアム卿からなるべく早く連絡がほしいとのお電話がありました」

「すまないな。手伝わせて」

「いえ、いいんです。わたくしは桜夜様のお世話ならなんでもしたいです。そう、なんでも……」

 桜夜は若干苦笑いする三姉妹の中でも、この子からはたまに狂気を感じるのである。

◆◆◆

 その頃サイカは洗濯中。

「お、桜夜さんの下着……! 」

 その頃のホムラは。ゲーム中

「くそ! くそ! なんで一面からこんなに難しいんだよ!」

 ホムラの腕の中には桜夜からもらったぬいぐるみがあった。

◆◆◆

「んー!」

 ウィリアム卿との電話会談を終えた桜夜は、座ったままうーんと伸びをする。そんな彼の顔をリオが覗きこむ。

「お疲れ様でした。今日のお仕事は以上です」

「そっか」

仰け反ったままこれからなにをしようかと考えていると、リオが笑った。

「たまには軽い運動にお散歩はいかがですか?」

「散歩、ねえ……」

 少しだけ嫌そうにしたのが伝わったのだろう、リオは妖艶に微笑んだ。その顔は不死身の魔女とよく似ていた。

「お散歩がおいやでしたら、別の運動にいたしますか?」

 リオはブラウスのボタンを第2ボタンまで開け、その谷間を見せてきた。

「君は困った子だね」

 桜夜は苦笑いする。三姉妹の中で唯一、リオの気持ちがわかりにくいと桜夜は思っていた。サイカの好意はまっすぐでわかりやすく、彼に安心感を与えてくれる。ホムラは恋愛感情かはともかく、兄妹のように接してくれ、彼の孤独を癒してくれた。

しかしリオの誘うような表情は少しだけ困ってしまう。大人の駆け引きのようで、からかわれている気さえする。だから腹いせに桜夜は彼女の唇を奪い、深く弄んでみた。

 リオも最初は驚いたようだが、すぐに受け入れ、あろうことか自分から舌を絡めてきた。たっぷりとその甘い唇を桜夜が味わい、口をはなしたときには、つーっと唾液の橋がかかり、リオの目はとろんとしていた。肌も桜色で、明らかに「スイッチが入っていた」。だから桜夜はにっと笑って立ち上がった。

「じゃあ散歩にいきますか」

 そんな彼を、リオは恨めしそうに睨む。

「……いじわるです」

◆◆◆

 服のボタンを直したリオを伴い、四方院本邸の庭園を桜夜は歩いていた。やがて池にたどり着くと、彼は池の鯉を覗きこんだ。

「餌をもってきてやればよかったかな」

 彼の呟きにリオは笑顔で鯉の餌を取り出した。

「はい、どうぞ」

「相変わらず準備がいいね」

 彼女から餌を半分もらいながら思う。本当にリオは準備がいい。秘書をしてもらっているが、彼女は桜夜がほしいもの常に先回りして用意してくれる。それは桜夜以上に彼と彼の仕事を知り尽くしているということだ。ただ飲みたい飲み物まで飲みたいときに用意されていたときはさすがに狂気を感じたが……。

 桜夜が餌を撒いていると庭園で飼われているアヒルたちがご相伴に預かろうと飛んできて、池は鯉とアヒルの群れで一杯になった。それを見てリオは楽しくなったらしく、珍しいくらい少女らしく笑いながら池の上に立ち(水の魔女には朝飯前らしい)、踊るように餌をまいた。その姿が愛らしくて、桜夜は寂しげに微笑んだ。

 大人になるとは、駆け引きを覚えることだ。彼自身、師匠から戦場での駆け引きを、宗主からは政治的な駆け引きを学んだ。それは悪いことではない。だけれど人生のすべてが駆け引きになってしまうのが寂しい。三姉妹の中で一番早く駆け引きを覚えてしまいそうなリオが、少女らしく笑ってくれる日が一日でも長くなること桜夜は祈った。

「リオ」

「ふふふ、なんですか?」

「そうしている方がかわいいよ」

「ふえ?」

 桜夜の不意打ちの言葉に、リオの魔力は乱れ、池に落ちてしまった。彼は慌てて池に入り、彼女を池から拾い上げた。

「大丈夫か?」

「もう! びっくりさせないでください!」

「いや、悪かったよ」

 顔を真っ赤にし、涙目になるリオに桜夜は平謝りを続けた。

「許しません! 一緒にお風呂に入っていただきます!」

to be continued

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